「ほら」


「え……」


ずい、と目の前に出された半分のりんご。


「くれるの?」


「いらないんなら別にいいけど」


そう言ってりんごは彼の元へと戻っていく。

それに慌てて手を伸ばす。


「待って待って!食べる!」


南くんからりんごを受け取って、一口かじりつく。

すると、口の中にほんのりと甘い味が広がった。

それに思わず顔をほころばせると、一瞬、

ほんの一瞬だけ

南くんが優しく微笑んでいたように見えた。

それについ南くんの顔をじっと見つめていると、彼は怪訝そうに眉を潜めた。


「………………………………………なに」


「えっ」


「…そんなに人の顔見ないでくれる?」


その表情はいつもどおりに戻っていて、さっきの微笑みはかけらほども残っていない。

気のせい……だったのかな?


「ご、ごめんね。何でもない」


苦笑いを浮かべながら、またりんごにかじりつく。

南くんも窓の外を見ながらりんごを一口食べる。

お互いに口を開かない、静かな時。

ちらりと前を見れば、南くんの手が止まっていた。

りんごを片手に、ぼんやりと窓の外を眺めている。

その顔はとても哀しそうで、なぜか胸が痛んだ。

これは、彼の心の叫びなのか…。

そっと目を閉じて意識を彼に集中させる。

自分からこの能力を使うのは何年ぶりだろう。

頭に浮かぶ、心のイメージ。

普通の人ならここにグラフが出てくるんだけど……。

…………。

…だめだ。