彼は大きなため息をつくと、視線を私に移した。


「……それは分かってるよ。
僕が言ってるのは、普通お見舞いの品って花とか籠にいくつかの果物じゃないの?
少なくとも、りんご1つってのはないと思うけど」


「あは、あはは…気のせい気のせい」


……言えない!

お見舞い買うの忘れて買いに行ったものの、お金が無かったなんて。

絶対に言えない…!!


うまい言い訳も見つからず、空笑いを続ける。

彼はそんな私を怪訝そうに見ると、ずばり核心の言葉を突いた。




「あんた、何か隠してるだろ」




ぎくっ

今の私にはまさしくその言葉がお似合いのことだろう。

南くん…鋭い。

思わずひきつる笑顔を抑えつつ、必死に顔を振る。


「な、何にも隠してないよ!」


「ふぅん…」


「あっ!ほら、りんご食べよう?
私、こうみえて料理得意なんだから!!」


話をなんとか逸らそうバックをあさる。

…………。

………………。

……あれ……?


「あ…」


「なに」


「私…ナイフ持ってなかった…」


「…………」


気まずい数秒の沈黙。

呆れた目で私を見る南くん…。

私ってつくづく馬鹿だなぁ。

あまりの馬鹿さ加減に目を落とせば、手にあったりんごがひょいと持ち上げられる。

思わずそれを目で追うと、南くんが右手にりんごを持っていた。


「あんた馬鹿だろ?
果物持ってきといて切るものないとか」


「…返す言葉もありません」


彼は小さく息をはいて、りんごを頭上に投げる。

すると、きれいに皮が剥かれて、しかも半分になって南くんの手元に戻ってきた。