「……別に、看病してくれなんて頼んでない」


「ったく…素直じゃねぇなぁ」


そんな奴はこうだっ!と言いながら首に腕をまわされて頭をぐりぐりされる。


「ちょっ!僕病人なんだけど」


「なんも病気してねぇじゃねぇか」


「…僕、怪我人なんだけど?」


怪我人を嫌に強調すると、健次はようやく腕を解いた。

ぼさぼさになった髪を手櫛で直しながら睨み付けると。

彼は両手を顔の高さまで挙げて、降参の意を示した。


「……で?
なんでこいつがここにいるわけ?」


「どうしてもって言うからさ」


「ふぅん……」


健次の両腕を掴んで、必死に頼み込む彼女の姿が安易に想像できる。

もちろん、それに折れる健次の姿も。


二人して僕なんかの心配して。

わざわざ病院にまで連れてきて、それについてきて。

ほんと…揃いも揃って。


「……お節介な奴ら」


「なんか言ったか?
腹減った?」


「あんたと一緒にしないでくれる?
何でもないよ」


小さく呟いた言葉は健次には聞こえなかったらしい。


ま…いいけど。


「ん……」


布団が微かに引っ張られて、彼女の声が小さく漏れた。

すると、ゆっくりと上体を起こしながら目を擦って。

まだ焦点の合わない瞳で僕を見つめた。


「……………み、なみくん……?」


「そうだけど」


ごく当たり前のことを普通に答えれば。

いきなり椅子から立ち上がって僕に迫ってきた。

そしてそのまま質問攻め。


「っ!!
南くん?!大丈夫?!痛くない?!私のこと分かる?!」


あまりの気迫に、思わずたじろったけど。

なんとか冷静を装って答える。


「大丈夫だよ、別に痛くもないし、あんたのことも分かる」


「ほんとに??
……良かったぁ…」


そう言った彼女の表情はとても優しくて、透明で。

一瞬息をのんだ。


「別に、あんたに心配される覚えはないんだけど」


思わず顔を背けて、素っ気なく返せば。

少しむっとした表情をされた。


「なんでそういうこと言うかなぁ?」