ぶつかっても何も見えなかったし…。

こんな人は初めて。

どうして…見えないんだろう。


…心を、閉ざしてるの?


どれだけ考えても、理由なんて皆目見当もつかないけど。

あなたが一度だけ見せた、表情(カオ)が。

あの、今にも泣きそうなほど辛そうな表情が。

今でも私の胸を締め付ける……。


ねぇ、あなたは一体何を考えているの?

何をそんなに抱え込んでいるの?


「あっ………」


気がつくと、足が勝手に動いていて。

彼の腕を掴んでいた。


「………何か用?」


「え、と…ごめんなさい。人違いでした!」


「ふぅん…ならさ、離してくんない?
歩けないんだけど」


「ご、ごめんなさい」


どこまでも冷めた口調に、きだるそうな態度。


違う………。

それはホントのあなたじゃない。

私の心のどこかでそう聞こえる。

どうしてこんなこと思うのか、分からないけど。

このままじゃいけないって。

やっぱり私の心が言う。


「あの……っ!」


再び歩き出そうと背を向けた彼に、意を決して呼び止める。

すると、めんどくさそうにこちらを向いた。


「何?まだ何かあるわけ?」


って呼び止めたのはいいけど……。


「えっと……」


何て言えばいいんだろう!


“あなたの心が見えないんです!何かあったんですか?!”


なんて聞けるはずもなく。

苦笑しながら必死に言葉を選んでいると。


「用がないなら行っていい?僕、そんなに暇じゃないんだよね」


ため息をつきながら冷ややかな瞳で睨まれた。

そして、そのまま再び背を向けようとする彼を、私は慌てて呼び止める。


「待っ、待って!」


「何だよ」


彼は苛立った様子で顔だけ振り向ける。


「え、と……無理、しないで?」


「…は?」


「その、あんまり無理して、自分を偽ってたら……その…心が壊れちゃうから」


ね?と優しく微笑むと、南くんは一瞬目を見開いて、息を呑んだ。