どうしてなんの躊躇いもなく僕に触れようとするんだ。


さっきまで僕は……。




命を狙っていたのに…………。




「南くん……?
大丈……きゃっ!!」


「…あんた、相当ばかだね」


「南…く……」


……今は、迷ってる場合じゃない。

あいつを助けるには、迷いなんか捨てるしかない。

今までも、ずっとそうしてきたんだ。

今さら変えるわけにはいかない…。


「さっきだって命を狙われただろう?なのによく近付けるよね」


「…………」


ほんと……なんで逃げようとしないんだよ。

いくら同級生だって、男に押し倒されれば逃げるだろう……。

……普通。


「ねぇ…今の状況わかってる……?」


「とりあえず…は」


「じゃあ質問。
僕は何のためにこんなことしてると思う?」


意地悪く微笑んで問い掛ければ。

彼女は言葉を濁しながら苦笑して答えた。


「えっと…その、欲求不満……?」


「はぁ??
…………。
――……あんた、やっぱり、ばかだね………………」


思いっきり聞こえるようにため息をついて、冷ややかな視線をおくる。


すると彼女は、「あはは、冗談です」と苦笑した。

…本気で言われてたまるかよ。

そう言いかけて、やめた。

こいつと話してるとなんだか調子が狂う。

さっさと殺したほうがよさそうだ…。


「……あんたには、ここで死んでもらう」


「…………」


「さっきは逃がしちゃったけど、今回は逃がさないから」


確かに本気でそう言ったはずなのに。

彼女の紺碧の瞳はあまりに綺麗で、真っ直ぐで。

思わず息をのんだ。


「……怖くないわけ…?」


「え…?」


ぽそりと呟いて、はっと我にかえった。

今……。

どうして。

どうして僕がこれから殺す奴の気持ちなんて……。

ここ何年も気にしたことなんて、なかったのに………――。