「南く………」


「靖ちゃーん、いつまで躊躇ってる気?」


交渉の言葉を遮られて。

突然降ってきた声に驚きながらも、声の方を見ると。

電柱の上に女の子が立って、こちらを見下ろしていた。


「あんり…やっぱりいたのか」


あんりと呼ばれた女の子は、電柱から飛び降りてきた。

そして南くんの前に立つと、彼の耳に何かを囁いてこちらを向いた。


「ほんと、そっくりね」


「え…?」


「あなたの髪の色。
淡くて、太陽みたいにキラキラしてる」


うふふ、と笑う彼女は、女の私から見ても可愛い。

悪戯っ子のような若草色の瞳は、淡いピンクの髪によく映えてる。


「……似てるって?」


「そりゃあ……――」


「あんり」


なぜか南くんは彼女の言葉を強く遮った。

微かに顔が強張っているようにも見える。

「…はいはい」


「…………」


二人の間にながれる微妙な空気。

何だかよく分からないけど、頭がズキズキと痛む。

これは、負の感情がきたときにおこる痛み。

つまり、二人の関係はあまり良くない…と思われる。


「ねえ、靖ちゃん。今日ね、夕飯パスタだって」


「……は?」


「だーかーらー。今日はあんりの大好物なわけよ」


「……何が言いたい」


「つまり…」


彼女はちらりと私を見ると、見事な速さで近づき。

私の頭に拳銃を突きつけた。


「早く殺しちゃおって、は・な・し」


彼女は、まるで語尾にハートでも付けたかのように微笑んだ。

普通なら絶対に可愛らしく見える微笑みも。

今の私には悪魔の微笑みにしか見えない。


「あ……」


逃げ出したい。

でも足が震えて、動けない。

私、このまま殺されちゃうの……?


「ふふ、大丈夫だよ。一発ですむから」


彼女はにこやかに笑うと、引き金をひいた。

カチャリという音に乗じてぎゅっと目を瞑る。