「あれ、亜紀って朝こんなに早いの?ウソやーん。俺と同じギリギリ組だと思ってたー」
「そだよー、いっつもこれくらい。遅刻ギリギリの誰かさんと違って私は偉いんです!」
えっへん!と胸を張って彼女――もとい河本亜紀が言った。
その仕草がとても可愛くて、僕は彼女を直視することが出来なかった。
千晃と彼女の会話なんて耳に入ってこないくらい胸が高鳴った。
こんなに近くで彼女の笑顔を見ていると、暑い訳でもないのに、僕の顔は赤くなる。
それと反するように冷や汗が出た。
「お前何してんの」
「い、や…ちょっと…暑いから…」
「いやいやいや、机とキスしてどーすんだよ」
「この方が冷たい」
「は?意味が分からん。良いから顔上げろよ。なんか死んだみたいになってるし。」
千晃は僕の顔を上げさせようと、僕の頭を両手で掴み、半ば無理矢理力を込める。
僕は、「このままで良いって!良いって!」と必死に抵抗をする。
今ここで顔を上げたら彼女が近くにいるのだろう。
もし、彼女と目を合ったら何を言えば良い?
おはよう、と簡単に言えれば苦労はしない。
いっそ彼女とは目を合わせずに、千晃と喋ってれば良いのでは、とも思ったが、それではあまりにも不自然だ。
そもそも彼女は僕なんかに話し掛けられて嫌な思いはしないだろうか。
僕は上手く喋れないから、彼女はまた少し不思議そうな顔をするのではないか。
そうなったら彼女は何て返せば良いのか分からずに困ってしまうのではないか。
そんな不安が頭を占めるが、その頭は千晃の手に絞められていて、僕の考えがまとまるより先に千晃の力が僕の力に勝った。
「うわっ!!」
「ぃぃぃよっしゃぁぁあ!!!俺の勝ち!!」
千晃はそう言って、ガッツポーズを決め、子供のように屈託のない無邪気な笑顔で白い歯を見せた。
周りからすると、その子供のような笑顔を微笑ましいと思うのだろうが、今の僕的には今すぐ目潰しをしたいと思った。
そんな僕の心中を知ってか、知らずか、
「なーにをそんなにムキになってんのさっ!恋する優希ちゃんっ!」
そう、ニヤッと意味ありげに笑った。
こ、これは…僕は間違いなく遊ばれている…。
まるでイタズラが成功したように笑う千晃を見て確信した。
それと同時に、自分の想いを千晃にバラしてしまったことを心底後悔した。
