先輩の後ろをついて歩きながら、ホッと胸を撫で下ろす。
この前のことは気にしてないみたいだ。
僕が結構気にしていても、部長はすぐに無かったことにする。
僕は無かったことにするのが下手だけど、部長は隠すのがとことん得意な人だ。
部長は頭が良いから、そんなに昔でもないこの間のことは覚えてるに決まっている。
覚えているのに、この間のことを怒るでも、気まずそうにするでもない部長にむず痒いものを感じた。
全くいつも通りの調子だから、逆にこっちの調子が狂ってしまう。
そう思ってしまっていることも部長には見通されている気がして、なんだか居心地が悪かった。
気まずくはないが居心地が悪い。
「あの…、部長。」
先生に見付かることを恐れていない様子で、隠れもせず堂々と廊下を歩く部長の真っ直ぐな背中に声を掛ける。
「どこ行くんですか?」
「私達のアトリエ」
「達?」
「うん、まぁ。ああ、確か優希くんも使ったことあるんじゃないかな?」
振り返りもせずに言う部長の言葉には思い当たる節があった。
昔、たった1度だけ使ったことがある。
それはいつだったか、どこだったか。
ただ使ったのは覚えている。
使ったというよりは、入ったという方が正しいだろう。
「まぁ、君は入ったことがあるだけだから、覚えてなくてもしょうがないか。」
返事が遅い僕が覚えてないことを悟ったのか、部長はそう言った。
僕は曖昧に「はあ…」と返す。
「行けば思い出すよ、きっと」
部長は確信があるような口調だったので、僕は取り敢えず部長の確信を信じることにした。
