弱虫男子



学校に着くまでお互いに喋ることはなく、それは学校に着いても変わらなかった。

窓側に座る河本さんを見やる。
その背中はどこか悲しそうに見えた。

ああ…、と思う。
僕は知らないうちに河本さんを傷付けていたのかもしれない。
いや、きっとそうだ。

だって、あんなにも寂しそうに笑う姿は初めて見た。

これだから。
これだからあまり人とは関わりたくないんだ。
いつだって傷付くのは自分で、後悔したって手遅れ。
そんなことばかりだ。

いつもの教室も、なんだか僕を拒絶しているようにさえ思えた。

居心地の悪い教室を出て僕が向かったのは図書室。
歩きながら開いていないかもしれないと思ったが、僕の心配は空回りに終わった。
うちの学校は不用心らしく、図書室はいつも通り開いていた。

いつもとの違いと言えば、カウンターに図書委員がいないということだけなのに、図書室はなんだか物寂しいような気がした。

それは僕の心境を反映して見えているからなのか、ただ単純に図書委員の存在が大きかったのか、はっきりとは分からなかった。

誰もいない図書室で、いつもの席に座って呆然と図書室の壁に貼ってあるポスターを眺める。
何の面白味もない、ただのポスター。

しかし、そのポスターまでもが僕を拒絶しているかのように画鋲が外れ、右下の方は丸まっていて見えなかった。

ポスターまでもが僕を拒絶しているなんて被害妄想も良いところだな、と自分の自意識過剰さに苦笑した。

余計に空しかった。

どれぐらいそうしていたのか正確な時間までは分からなかったけど、1限目の開始のチャイムが鳴ったのは、どこか遠くで聞いていた。

授業をサボってしまったことへの罪悪感なんかよりも、河本さんに拒絶されたことへのショックとそれから疑問が、僕の思考の大部分を占めていた。

本気で分からない。
これだから僕はダメなのかもしれないが、僕は河本さんの思考が何1つ分からない。

女心は難しいとは聞いていたけれど、どうも僕には難題すぎる。

図書室を1周してみる。
しかし分からない。

ゴツン、と机に頭をつけてみる。
やはり分からない。

「あー」と呟いてみる。
けれども分からない。

どうしても分からない。

情けない。
髪を切って眼鏡を外して、だからって人間はそう簡単に変われるもんじゃない。

僕がポジティブな心を持ち始めた瞬間に出鼻を挫かれるとは先行きが不安だ。

思って気が付いた。

先行きも何も、河本さんに拒絶されてしまえば僕が変わりたいと思った理由はなくなるのにな、と。

「………ごめん。」

僕の小さな謝罪は、自分でも驚くほどに泣きそうな、か細い声だった。

もちろん、この呟きで何かを閃くも思えないし、解決策が出るとも思えない、河本さんに届くこともない。
だけど、よく分からない何かに謝りでもしなければ、僕はそのまま泣きそうだった。