週明けの月曜日。
いつもなら重くて仕方がない足取りが今日は軽くて、それは気持ちも同じだった。
そして、今日は少し遅い登校になる。
河本さんが登校する時間――、いつもは避けていた時間帯の登校は緊張する。
「よし。」
気合いを入れて、行ってきます、と両親に声を掛けた。
母さんは少し驚いた風に台所から出てきて、
「本当に大丈夫なの?」
そう、あまりにも不安気な様子で訊ねるものだから、母さんの過保護っぷりに苦笑をもらした。
「心配しなくても大丈夫だよ、母さん。」
「それなら良いんだけど…、昨日も遅くまで走っていたじゃない?体は大丈夫?」
「うん。この通り。」
母さんの前で何度か足を曲げ伸ばしして、大丈夫だということを伝えた。
それでもまだ心配そうな顔をする母さんに、今度は、黙って新聞を読んでいた父さんが苦笑気味に言った。
「母さんは心配し過ぎだ。優希だって男なんだから、それぐらいのことで体を壊したりしないさ。なぁ、優希。」
「父さんの言う通りだよ。じゃあ、行ってくるからね。」
今度こそ行ってきますと言って、鞄を手に取った。
ガチャンと閉まった扉と、だいぶ雰囲気の変わった息子の足音を聞いたその母は、ポスンッと新聞を読んでいた夫の横に座った。
「不思議ね。この間までは周りの目が怖いって怯えていた子が、あんなに強くなるなんて。」
「絵、また描き始めたんだって?」
「そうなの。急に髪を切ったと思ったら、絵の具はどこかって聞いてきたのよ。ビックリしちゃった。あんなに絵を描くことを怖がっていたのにね。」
「アイツなりに何か変わったんだろうな。やっぱり、アイツの望む高校に行かせて良かったろ?」
「ええ。私だって最初は美術の道を極めて欲しかったけど、…そうね、あの時あの子の意思を尊重して良かったって思ってる。」
嬉しそうに言う妻を見ながら、夫は静かに微笑んだ。
「俺の自慢の息子だ。」
「いやぁねぇ、私の自慢の息子でもあるんだからね。」
妻の言い分に夫は、分かってるよ、と返した。
「強い息子と、優しい夫に恵まれて、私はとんだ幸せ者ね。」
「そうだな。俺も、曲がらずに育ってくれた息子と、美しい妻に恵まれて幸せだよ。」
「あら、あなたがそんなこと言うなんて珍しい。」
妻が驚いたように夫を見つめ、夫は懐かしそうに目を細めた。
「優希を見てると昔の自分を見ているようでドキドキするよ。」
「すぐに突っ走る所があなたにそっくりよ。」
「その行動力がある所はお前にそっくりだよ。」
「ふふっ、私たちの自慢の息子だものね。」
夫は、自分の肩に寄り掛かって目を閉じる妻に、チュッと短く口づけを交わした。
妻は少し驚いたように顔を上げたあと、嬉しそうに微笑んで、また夫の肩へと寄り掛かった。
