「明日香じゃねぇだろ?」
「痛い痛い!明日香様!痛い!」
明日香さんによって頬を思いきりつねられている千晃が悲痛の叫びを上げる。
「ちょっ…俺の顔が崩れたら、たくさんの女の子が泣くんだからなー!」
「その心配はいらないから安心しろ。」
「明日香だって俺のこと可愛いと思ってる、く、せ、に――痛い痛い痛い!ゴメンなさいふざけてました痛いです」
明日香さんが手をパッと離すと、千晃は何度も頬を擦った。
なんだか、いつもの僕を見ている気分だった。
明日香さんは、そんな千晃を一瞥して、
「はっ、この愚弟が。」
…………愚、弟…?
明日香さんの言葉が頭の中で反響して、その意味を理解するのに数秒を要した。
「……えぇ…?」
「なんだよー、そんな不思議そうな顔して。」
「いや…だっ…愚弟って……えぇ。」
「そんなに驚くか?フツー。」
千晃は明日香さんを指差しながら、
「これが寝起きの悪いうちの姉様です。……明日香様、痛い…。」
「お前が変な紹介するからだろ。」
「あ、そうそう。これ、優希って言うの。ヨロシクしてあげてね。こいつの髪バッサリ切っちゃって欲しいんだよね~」
僕のことを〝これ〟呼ばわりするのはいつものことだから怒る気にもなれない。
「はぁ?わざわざ、私の、少ない、休日、に?」
1語1語区切って言うのは、明日香さんなりの嫌味なんだろうが、千晃は意にも介さぬ様子で「おねがーい!ねぇ?お姉さま?」と甘えた声を出している。
「……はぁ。」
腕を組んで不機嫌そうに顔をしかめていた明日香さんは、諦めたように溜め息をついた。
「来い。愚弟と…あー、モサ男。」
「ぷっ…!」
僕のライフゲージがんがん減るよ。
千晃は、向こうを向きながら肩を小刻みに震わせている。
「さぁ、行こうか!モサ男!」
言いながら、千晃の口元は笑いを隠せていなかった。
