弱虫男子




「もう髪切るのは決めたよ。ただ、似合わなかったらどうしようかなーっていう不安。」

「何を始めるにしても不安は付き物って言うだろ?不安なものは不安なままでイイんだよ。不安で結構結構!」

それに、と千晃はニカッと笑った。

「お前が心配するほど、あの人は下手じゃねーよ。」

「あの人って?さっき言ってた明日香さん?」

「怒るとすんげー怖いし口も悪いけど、腕は確かだよ。正直めっちゃ上手い。お前と一緒で口ベタな分、髪を切るっていう行動で自分の気持ちを表現する人だから。」

まるで自分のことのように自慢気に話す千晃が子供のように見えて笑ってしまえば、千晃は少しむくれた。

「なに笑ってんだよー。」

「いや、千晃は千晃だなーと思ってさ。」

「それってどういう…」

千晃は言いかけて止めた。
僕が言おうとしたことが分かったのだろう。

「どういう意味?そのまんまの意味だよ」

だから僕があえて千晃の言葉を引き継げば、千晃は少しではなく、だいぶむくれた。

「その顔ムカつく。」

「いつもは千晃に流されっぱなしだからね。たまには僕が千晃を言い負かしたって良いでしょー」

「お前って喋ると案外負けず嫌いだよな」

「口ベタで他の人とはあんまり喋れない分、喋れる人にはとことん喋るからね。」

「はー、めんどくせー奴」

千晃は丸めた雑誌で僕の頭を軽く叩いた。

「もっと他の人とも話してみろよ。最初は不安でも、案外あっさりと慣れるもんだぞ?俺はクラスの輪の中でも笑うお前がいれば良いなーと思うし、それがお前にとって難しいことも分かるよ。だけどさ、やってみなきゃ分かんないことがあるってことも知ってる。失敗なんて、お前の数少ない友達に任せて、お前は前だけ見てろ。今だけなら支えてやるからさ。」

「……うん。」

千晃の優しさに、友達が少ない僕はどう反応すれば良いのか分からず、なんだか泣きたいような気持ちになった。

フッと、どこか嬉しそうに笑う千晃の横顔は、珍しくカッコ良く見えた。
その後に、こちらに視線を寄越さないのは恥ずかしいからだと分かって、こっちまで恥ずかしいような気になった。

「青春ドラマみたい。」

「クサイ台詞を吐いたと自分でも思ってらぁ」

照れ臭そうにそっぽを向く千晃は、やっぱり子供っぽいのに、時々すごく大人に見えて、そんな所を尊敬する。

「ありがと、千晃」

「照れるからヤメロ」

「千晃のせいで良い雰囲気からの収集がつかなくなったけど。」

「良い雰囲気をぶち壊すのもヤメロ」

「アタシの睡眠をぶち壊すのもヤメロ。このクソガキが。」

突然、僕の後ろから降ってきた声に驚いて振り向くと、そこには見るからに機嫌が悪そうな表現で僕らを見下ろす女性がいた。
女性とは思えない威圧的な態度に僕が動けずにいると、

「あ、明日香。」

千晃の間の抜けたような声が聞こえた。