「でんっ!どう?」
「どう?…って言われても…。」
僕達の前に建っているのは、何年振りかにお世話になる美容院。
「…思った以上にガラス張りで帰りたい。」
何年前かにお世話になった美容院はもっとこう、なんというか、ガラスの面積が少なかったと思うのだが。
僕が知らないうちに美容院とは全面ガラス張りにでもする風潮が出来たのか。
「オシャレだよ、オシャレ」
「オシャレを追求し過ぎて安全性に欠ける。こんなガラス、台風が来たら一発アウトじゃん。もし瓦礫でも飛んで来たらどうするのさ。お客様が危険に晒されるよ、ダメだよ。それにお客様の個人情報が何も守れない。外から丸見え。もれなく外を歩く人とコンニチハだよ。目で人を殺せる人が通ったらすぐ死んじゃうから帰りたい。」
「はいはい、誰もお前なんて見ないから安心しろって。」
「分からないよ!?もしかしたら僕の命を付け狙ってる人がガラス張りの向こうに僕を見付けて撃ってくるかもよ!?そんな時ガラスだったらすぐ死ぬ!」
「銃を持ってる奴らにゃ、ガラスでなくても敵わねーよ。」
「ガラスだと破片が目に刺さって失明する!そしたら逃げるに逃げられなくなる!」
「銃撃されるの前提?」
「大前提。」
「はぁ…しゃーねーなー。やっぱ俺が切ってや…」
「よし、ここで切ろう。そもそも銃撃なんてされる筈がない。うん。ガラス良いよね。最高。僕ガラスって大好きナンダヨネ。」
「じゃあ行こうか」
ニッコリと笑う千晃を見て、はめられた、とやっぱり帰りたくなった。
店の中も、当然と言うべきかオシャレな作りで、僕はアワアワとなった。
店の受け付けの横には水槽があって、その中を絶対食べちゃいけない色の魚が泳いでいる。
なんで美容院の中に水槽?
歯医者?ここは歯医者なの?
それに、何故か螺旋階段。
もう本当にオシャレ過ぎて帰ろう。
「あ、ちぃちゃん!どうしたの?カット?」
茶色の髪を、くるんっと内側に巻いた、女子大生っぽい人がパタパタとやって来た。
膝までのスカートに、夏らしい薄手のTシャツというラフな格好なのに、なんだかすごく可愛らしい。
「んーん、今日はコイツ。」
「あれ?ちぃちゃんの友達?」
「そ、優希ってーの。」
「優希くんかー。あ!私、神崎奈美です!今年で19になったばかりの大学生だよー!よろしくねー」
ニコニコと人の良さそうな笑顔を浮かべて、僕に右手を差し出す。
「は、い。よろしくお願いします…、えっと、神崎さん…?」
差し出された右手を握り返すと、神崎さんは繋いだ手をブンブンと上下にふりながら、「えへへ~、良い子だなぁ」と子犬みたいな笑顔で言うもんだから、手が痛いとも言えず。
「あはは~…」
とりあえず笑っておいた。
