弱虫男子




土曜日の正午ちょっきり。
混み混みのファミレスの中で、

「………………………は?」

千晃は、たっぷりと間を使ったあと、怪訝そうに顔をしかめた。

「は?え?今なんつった…?」

「いや、だから…僕変わりたいんだけど、どうすれば良いのかなって…」

「え?…え?なん…は?」

「聞く気ある?」

千晃は、夏だというのにホカホカと湯気をたてるハンバーグにフォークを刺しながら、

「あるっつーの。単純に驚いたけど。なんでまた変わりたいなんて?あ、もしかして、昨日の俺の頑張りのおかげだったりする?」

「やっぱり用事なんて嘘だったのか…」

「もっちろーん!可愛い友達の為に一肌脱いでやったのよー?褒めて褒めてー」

「千晃のせいで昨日は死ぬかと思った。」

「え、俺のせい?おかげだろ?」

「はいはい。」

ハンバーグなんて暑そうだなー、と思いながら、夏にはピッタリのサンドイッチを咀嚼する。

けど、千晃はそんなの気にする様子もなくハンバーグをモグモグと食べ続ける。

「いめへんひはいん?」

何言ってるかよく分からないが、おおよそ「イメチェンしたいん?」だろう。

イメチェンをしたい…?
まぁ…、変わりたいという意味ではそういうことになるか。

「そう。えっと、その……昨日河本さんに、眼鏡ない方がカッコ良いって言われたから…」

昨日のことを思い出して、また顔が赤くなりそうだった。

「そんなこと言われたの?!やっぱり俺のおかげじゃーん!」

千晃は嬉しそうに言って、

「変わりたいかーそっかー河本さんの、た、め、に、ねぇ~?」

わざとらしく、『ために』を強調してニヤニヤと笑った。
まるで語尾にハートが付きそうな口調で言うから、僕は相談相手を間違えたか、と少し後悔した。

とりあえず千晃の言葉は聞かなかったことにして、もう1度訊ねた。

「どうすれば良いと思う?」

「あー、髪切れ、髪!眼鏡ない方がカッコ良いって言われたんなら眼鏡も外せ!どうせお前はオシャレなんて何も知らないだろうから、俺が切ってやんよ。」

持っていたフォークをハサミのように構える千晃を見て、心から不安になった。

「えぇ…。」

「なんだよ、その目ぇー!俺うまいよー?髪切るの。この髪も自分で切ってるし」

ビシッと自分の頭を指しながら、自慢気に笑う千晃は、頼もしいのか考えなしなのか分からない。
そんな所にも、また不安を抱く。

「千晃が切るのは嫌な予感がする…。」

「大丈夫だって~何年も前から俺の将来の夢は美容師だから!安心してよ!」

「初めて聞いたよ!?」

僕の心配とは裏腹に、千晃はニコニコとやる気満々である。

「第一、髪切るなんて言ってないし…」

「お前の髪は長くてウザったい!切った方がイイに決まってる!」

「千晃だって長いじゃん。」

僕ほどでないにしろ、千晃も男子としては長い方だ。
前髪だって目に掛かるくらいの長さ。

「俺はオシャレな長さだろ、お前のボサノバと一緒にすんな。」

「ボサノバって言わないでよ!」

「でも実際そうじゃん。」

千晃が珍しく真剣な表情をつくり、僕の目を見据える。

「いつまでも逃げてたら何も始まんないよ。恋愛も、お前自身の問題もさ。始まんなきゃ終わんないんだから。」

「千晃…。」

フォークを僕に向けるのは行儀が悪いけど、千晃の言葉は素直に嬉しかった。
ちゃらんぽらんに見えても、ちゃんと真剣に考えて心配してくれるのは千晃に良い所で、それを上手く伝えられないのは千晃の悪い所。

だから、中には千晃を悪く言う人もいる。
ただのアホだって。
そんな時に僕は声を張って、お前らの方がよっぽどアホだ、と言ってやりたくなるのが常だ。