弱虫男子




彼女とは会話らしい会話をしたことがない。

誰にでも気さくな彼女が「おはよう。」と声を掛けてくれたことがあったが、僕は自分でも驚くほど小さな声で返した。
多分、聞こえてないと思う…。

僕自身何て言ったか聞き取れなかったし、彼女も少し不思議そうな顔をしていたから。

もちろん今日の朝だってなるべく近付かないようにしていたから、会話もなければ、目すら合っていない。

……僕ってダメだな…。

「はぁ…。」

我ながら、自分のダメさ加減に自然と溜め息がでた時、

「溜め息ばぁーっか吐いてると幸せが逃げるんだってよ、弱虫君」

僕の視線の先の彼女を隠すように、誰かの手が僕の視界を遮った。

誰か、なんて見なくても分かる。

「からかうのは止めてよ。千晃。」

「ホントのことだろー」

僕の前でわざとらく手をヒラヒラと振る男――泉堂千晃は、僕をバカにするように笑った。

どこまでも自由奔放なこの男は、僕が学校で唯一遠慮もなしに喋れる相手。
口ベタで上がり症な僕に、友達と呼べる友達などロクにいない。

千晃とは中学生の時に知り合った。
昔からチャラチャラとした外見で、僕とは正反対な性格をしている。

高校に入ってからは益々チャラくなったように思える。

それでも、根は良い奴で、こんな僕と友達をやってくれている。
なんだかんだ言って誰にでも優しい。