1人になった保健室で、大きく深呼吸をする。
さっきまで彼女が寝そべっていた布団の上に手を置くと、まだ少し温かくて、彼女がここにいたことを示していた。
「――っ、なにやってるんだ…僕は…!!」
何故だかとても恥ずかしくなって、そんな独り言をもらしながらベッドに寝転んだ。
誰に見られている訳でもないのに、誰にも見られないように真っ赤な顔を腕で隠した。
その隙間から見える天井は外のオレンジ色で、もうそんな時間か…と時計を見やった。
彼女には遅くなるからと帰宅を促したが、実際の所、遅くなるからというのはただの思い付きで時間なんて見ていなかった。
6時を指し示す時計を見て、溜め息が出そうになった。
先生、帰ってくる気あるのかな…。
「あ。」
カーテンに隠れて見えなかった、保健室の中央にある白いテーブルの上に、黒ぶちの眼鏡があることに気が付いた。
それは間違いなく僕のもので。
「なんであんなとこに…。」
僕はその眼鏡を取りに行く気にもなれず、寝転がりながら眼鏡を見つめていた。
『眼鏡、ない方がカッコ良いよ』
河本さんの言葉が脳裏によみがえる。
女子からは可愛いとしか言われて来なかった僕が、カッコ良い、と言われた。
ずっと言われたいと思っていた。
男なら誰もが思う、そんな感情。
カッコ良い、なんて僕には不釣り合いな、けどすごく嬉しくて堪らない言葉。
「はぁ…。」
今度こそ出た溜め息に、嫌気がさしつつ、僕の口元は隠しきれない笑みを浮かべていた。