「…く、…ゆう…ん!…きくん!」
「…っん。」
「優希くん!」
薄く目を開けると、そこに広がるのは海の底ではなくて、心配そうな表情の河本さんだった。
「か、わ…もとさん…?」
「優希くん怖い夢でも見たの?大丈夫?寝苦しそうだったよ。」
「怖い、夢…。」
心臓の鼓動が嫌に速く脈打ち、体中薄く汗ばんでいる。
夏に布団を着て寝たのがいけなかったか。
「もう放課後だよ。優希くん朝からいないから心配しちゃった。」
河本さんがシャッと薄っぺらいカーテンを開けると、その向こう側はまだ明るい太陽の光が射していた。
眩しくて目を細める。
まだ頭がボーッとする。
「ちょっと待ってね。今、水を…」
河本さんの「え…?」という戸惑いの声が聞こえた。
何に戸惑っているのか分からず、必死に頭を回すのに、大きく空回る。
「どうしたの?」
河本さんは僕の顔を覗き込むようにして訊いた。
僕は、何が?と聞き返す前に、自分が河本さんの戸惑いの原因であることに――僕が河本さんの制服の裾を掴んでいることに気が付いた。
「あ…。」
小さく声を上げると、恥ずかしくなって手を離した。
急に頭がフルに回転し出して、僕の視界と脳みそがクリアになって行く。
「ごめん…っ。」
僕は咄嗟に俯いて謝った。
河本さんは僕が寝ていたベッドの脇にポスンッと座ると、
「ふふっ、別に大丈夫だよ。怖い夢を見たあとって、なんか寂しいよね。分かる分かる」
僕の不安を打ち消すような、優しい笑顔を見せた。
