高校生になって良かったことは、保健室に行くとすぐに寝かせてくれる所だ。
保健室の先生は、僕の滞在をあっさりとOKしてくれるし、いつまで寝てても良い。
中学生の頃はそうは行かなかったから、すごく嬉しい特典だ。
元は白であったのだろう、今は黒ずんで灰色のようになっている天井を見つめる。
することがないと、やはり絵のことについて考えてしまう。
けれども、布団に入っていると、瞬きの回数は徐々に増え、その長さも長くなっていった。
――夢を見た。
僕がまだ、絵を描くのが好きな頃の夢。
あの頃はただ絵を描くのも見るのも好きで、絵を描くことに関しては今ほど上手くはなく、趣味で描く程度にしては上手いかな、くらいのレベルだった。
それがよくもこんなに上手くなったものだ。
初めて賞状を貰った時の僕は満面の笑みで、心底嬉しかったのを覚えている。
僕の髪もまだ短かったし、眼鏡も掛けていなかった。
小学校の高学年の頃は、賞状の数が片手で数え切れなくなり、周りの目が気になり始めた。
僕は前髪を伸ばしだした。
中学校に上がると、油絵や水彩画も出来るようになったから期待度はグンッと高まり、周りの目が怖くなり始めた。
僕は眼鏡をかけた。
そして、今。
絵も描かずに逃げている僕。
それでも良いんだと何度も自分に言い聞かせては泣きたくなるのだ。
泣きたくなるような眩しい笑顔が懐かしくて僕は手を伸ばすのに、その手は届くことはない。
スカッ、と空気を裂く音だけが響く。
それが妙に虚しくて、僕は走った。
走ると僕の足は軽くなり、空へ駆け上がった。
空は青いのに黒くて、雲は白いのに赤かった。
みんなが温かい笑顔で両手を広げてくれていたから、僕はそこへ行こうとするのに、何故か上手く進めない。
そうしているうちに、みんな僕に飽きて、僕に背を向けて違う方向へ行ってしまう。
みんなバラバラの方向に、こちらを振り向くこともなく。
僕は声の限り叫ぶのに、その声は雑音に消え入る。
誰も気付かない。
僕はもう、用済みか。
そして僕は落ちた。
空気抵抗もなく、音もなく、あっという間に落ちた。
ギュッと瞑った目を薄く開くと、そこは暗くて深くて怖かった。
それは、僕が描いた絵、そのものだった。
吸い込まれそうなほど真っ黒な底が、僕を引きづり込んでいるような不安感に襲われて、手足をバタつかせる。
すると、どんどん底が近付いて来た。
底が近付いているのではなく、僕が落ちているのだ、と気付いた瞬間、どうしても恐ろしくなった。
頭では分かっているのに体はそこから逃れようと必死にもがく。
頭と体が連動して動かずに、僕の頭はこんがらがるばかりだった。
次第に呼吸が苦しくなる。
息ができない錯覚に襲われる。
海が怖い。人の目が怖い。自分が怖い。
