弱虫男子




なんで今更そんなことを聞くのか分からなくて、僕は千晃を見返した。

「いや、なんとなくだよ。」

僕の心を察したのか、千晃は苦笑気味に答えた。
千晃は僕が絵を描かなくなった理由もなんとなく分かっていると思うし、これからも描くことはないと分かっている筈なんだけどなぁ。

いや、だから苦笑気味なのか?

少し居心地が悪そうに首の後ろを触るのは、千晃の悪い癖だ。
いつも、困ると無意識に首の後ろを触る。

「ねぇ、千晃。もうサッカーやんないの?」

僕の問いに、千晃は怪訝そうな顔になった。

「は?え?いや、だから俺にゃあ向いてないだろ。サッカーなんて。」

「僕も同じ理由だよ。」

僕は千晃を見て笑って見せる。
千晃は、やられた、と言わんばかりに片眉を寄せた。

「お前は、まだ好きじゃん。絵、描くの。」

ポツリと漏らした千晃の言葉は聞こえないフリをした。
なんて答えれば良いのか分からなかったから。

昨日も今日も、分からないことだらけで頭が痛くなる。
部長の悲しそうな笑顔も、千晃の拗ねたようなむくれっ面も、河本さんの優しい表情も。
色んな人から、色んな顔で、同じようなことを言われる。

絵なんて描きたくないって言っているのに。

絵なんて描きたくないのに、未だに鞄に入れて持ち歩いている本の存在がいつも気にかかる。
まるで呪いのようだ。

「お前がそれで良いなら俺も良いけど、さ。」と、千晃は言ってから、

「時間はまだあるんだから焦んなよ。周りの言うことなんて気にしてたらキリねーぞー」

ヒラヒラと手を振って、廊下へと消えて行った。
千晃の置いていった動物クッキーを見つめる。

励ましてくれた、のか…?

本当、なんで千晃は分かるんだろうなぁ。
そんなに分かりやすいかな、僕。
自分の頬を何度かつねったり、押したりしてみる。

千晃に気を使われる程、悩んでいる気はなかったんだけど。

昨日から頭を使いすぎて、どうにも頭の回転が遅くなっている。
グルグルと嫌にゆっくりと、頭の中で回る言葉が気持ち悪い。
優しい言葉も、嫌な言葉も、厳しい言葉も、悲しい言葉も、嬉しかった言葉も、全部が混ざり合って僕の中を回る。

こんな気分で勉強なんてする気になれなくて、河本さんの「おはよう」という、顔が綻びそうな程嬉しい言葉を聞く前に、僕は保健室へ向かった。