弱虫男子




明日になったら、周りが僕を天才だと言わなくなるだろうか。
先生方も、僕に絵を描いたらどうだ、と勧めなくなるだろうか。
部長も、少しは自由になれるだろうか。

僕と部長は境遇が似ているようで、全く違っていた。

部長も僕と同じ、〝天才〟だった。
けれども、部長は〝天才〟という称号以前に、〝有名な画家の娘〟という立ち位置だった。

確かに才能はあったけど、あくまで平均よりもスゴいというだけで、部長の親の方がよっぽど才能があった。

有名な画家の娘というものは、周りの期待も、批判も、多かった。
小さい頃から天才だと育てられ、その期待に応える為に努力して。
なのに親の七光りだと指を指されて笑われる。

部長の親も厳しい人で、努力をしろとばかり言っていたらしく、部長はその鬱憤を部活をサボっている幽霊部員への嫌味で晴らしている。
だから、時々部長の両親のことや、部長の境遇について長々と聞かされるのだ。

部長はそんなプレッシャーから解放されたくて、この普通の高校へ入学したらしい。

僕も同じだ。
小学生の頃から天才だった僕に、周りは更に上へ更に上へと行かせる為に、海外への留学さえ勧めてきた。

そのプレッシャーから抜け出したくて、小さな反抗のつもりで普通の高校へ入った。
中学の先生も、僕の絵を選んだ人も、残念そうだったけど、両親だけは賛成してくれて、それがとても嬉しかった。

最終的に辿り着く場所は同じでも、その根本が違うのだ。僕達は。

部長の方が苦しい状況で今の高校へ逃げてきたと言うのに、部長は未だに絵を描き続けている。

有名な画家の娘としての体裁もあるのだろうが、部長の場合は、本当は認められたいのだ。
審査員からも、お客さんからも、親からも。

だから絵を描き続けていると、僕はそう思っていた。
なのに、久し振りに会った部長は、僕の知っている強い部長ではなく、諦めることに逃げている弱虫な部長だった。

それでは、弱虫な僕と一緒だ。

部長は、僕の知っている部長は、嫌味ばかり言っては僕を困らせる、とても純粋な絵を描く人なんだ。

「どうすれば、良いんだろう…。」

こうも、僕が本気で悩んでいると言うのに、眠気はいつでも襲ってくる。

僕は瞼を閉じて、ゆっくりと、巡る思考を停止させて行った。