暑さに苦しめられる季節に、いよいよ近づいた頃。
春風もどきの緩く吹く風は、涼しさを感じさせるよりも、ぬるま湯に浸かっているような、そんな気だるさを感じさせる。
僕――風山優希は、暑さに弱い。
何もしていないのに汗が出る。
どうにも、この高校にクーラーを買うほどの予算はないらしく、教室を涼しくする方法は、窓を開けるか風鈴をつけるかの2択だ。
もちろん教室の窓は全開で、風鈴付きの窓際は完全に定員オーバーで、逆に暑苦しそうだった。
窓から離れた廊下側の自分の席に座ったまま、なるべく涼しさを感じる為に、数学のノートでパタパタと自分へ風を送る。
「亜紀ちゃんって本当に可愛いな~付き合ってくんねぇかな~」
「バッカ、お前が付き合える訳ねーだろ!」
教室の後ろの方から聞こえてくる小さな会話が自然と僕の耳に入り、僕は自分を扇ぐ手を止めた。
河本亜紀。
男女共に愛される容姿とキャラで、誰にでも優しい。
後輩や先輩、先生方からの評価も良く、同級生からも好かれる。
笑った顔がとても可愛い。
そんなモテない筈がない彼女は、僕が生まれて初めて好きになった人でもある。
窓際で友達とお喋りをしている彼女をチラッと横目で見る。
長い焦げ茶の髪をいつもお団子にしている彼女を目で追うようになっていたのはいつだったろうか。
自分でも気付かぬうちに彼女を好きになっていた。
人を好きになったことは只の1度もないうえに、誰かからこの気持ちを認められた訳ではないから確信は持てないけれど、多分この気持ちが恋だと、僕はそう思う。
