「優希くんって、1度話し始めると止まらない人なんだね。」
僕もそれ思いました。
恥ずかしさで押し潰れそうな僕に、部長は、でも、と続けた。
「その考え方は良いと思うよ。未完成こそが芸術だって思う人もいれば、優希くんみたいに、誰かの綺麗な一瞬になりたいと思う人もいると思う。その意見の違いが綺麗を生み出すんだよ。そっか…誰かの綺麗な一瞬になれたら、か…。」
部長は僕の1部分のフレーズを復唱した。
それがやけに恥ずかしくて、僕は少し口を尖らせた。
「部長だって…、同じようなこと考えてるじゃないですか…。」
「それは人を感動させる絵を描きたいって言った私への皮肉?」
そんなことはなかったけど、部長には皮肉にとれたようだった。
やっぱり、言葉は上手く伝わらないなぁ…。
「いや、だから、その…、僕と部長は同じなんですよ。境遇というよりかは、考え方が。」
「違うよ、優希くん。私達は境遇も違えば、考え方も全く違う。だって、優希くんは前に進むべき人だもん。後ろしか見れない私とは違うんだよ。」
部長の悟りきったような、高校生っぽくない表情に、心の奥がモヤッとした。
まるで、絵なんて描けないと諦めきっている自分を見ているようで。
「部長だって前に進めば良いじゃないですか。後ろを見たって良いじゃないですか。何がダメなんですか。」
部長を責めるような口調になってしまったのは許して欲しい。
それほどに僕は怒っているのだ。
まだ先があるのに、それを見ないフリで目を瞑る部長が嫌なのだ。
部長らしくない。
僕が言えた立場じゃないけど、1%でも叶う可能性のある夢を諦めてしまうのは、悲しいことだから。
「優希くんは優しいね。でも、その優しさは私にとっては苦痛だよ。優希くんが何と言おうとも、周りが認めない限り、」
部長は悲しそうに僕を見た。
「私と優希くんは全然違うよ。」
心がキリキリと痛む。
やはり、この空間は僕の精神を蝕むみたいだ。
部長は、無意識のうちに寄せていた僕の眉間のシワをほぐすように、僕の眉間に触れた。
「ねぇ、優希くん。君は人生を損してるよ。君はもっと…」
「もう、いいです。」
僕は、部長の手を軽く払い、立ち上がった。
部長も周りと同じことを言うのだろう。
『もっと絵を描くべきだ』と。
僕は、何度も言われ慣れたその言葉を聞きたくなかった。
「…失礼、しました。」
ペコリ、と部長の前で頭を下げて、美術室の扉に手を掛けた。
入ってきた時と同じく、冷や汗が出ている。
「待って。」
雑にあしらった僕に、部長がなだめるように、悲しそうに言った。
「同じだったら、良かったのにね。」
部長の悲しそうな笑い方に、僕の胸は更に痛んだ。
また部長に振り回されているような気になって、僕は子供のように、その場から逃げることしか出来なかった。
部長は1人になった部室で、座る人がつい先程いなくなった椅子に視線を落としながら、
「……ねぇ、優希くん。君は人生を損しているよ。君はもっと…『笑う』べきだ。」
そう、ひとりごちた。
