弱虫男子



「何ですか。」

渋々部長の隣に並んだ僕に、部長は椅子を出しながら、

「そんな構えなくても大丈夫だって。」

そう言って、僕に椅子を勧めた。
僕は椅子に座ると、これは本格的に部長のペースにはめられたな…と心中では大袈裟に溜め息を吐き出した。

「優希くんは絵を描くのは嫌い?」

「嫌いですよ。そんなの、部長が1番よく分かってるじゃないですか。」

僕は正直に答えた。
どうせ、部長は僕の気持ちが分かっているうえで聞いているんだろうから。

「分からないよ。私は絵を描くのが好きだから美術部に入ったんだもん。」

「…嘘。」

「うん、嘘だよ。まぁ、優希くんとは違う理由だと思うけど。」

部長の皮肉じみたその言い方に、僕はムッとした。

「おんなじような理由ですよ。だって、部長も僕と同じでしょう?」

我ながら子供っぽい皮肉だな、と感じた。

1つしか違わないのに、部長はいつも大人のように落ち着いていて、僕は振り回されてばかりいる。

「そうかな?」

部長は、わざとらしくとぼけて見せる。

そんな部長と視線を合わせたくなくて、部長が描いていた絵に視線を移した。

まだ水色にしか塗られていないその絵を何の感情もなく見つめる。

オレンジ色に近付いた空に照らされた教室の中で、部長の目の前のキャンパスの色だけが一際異彩を放っていて、周りに馴染むことはなく、ただそこに置かれていた。

「何を描いていたんですか」

話を逸らすように僕は訊ねた。
そんな僕の真意に気付いたのであろう部長は、クスッと笑った。

「あぁ、そんな目で見ないでよ。別に優希くんをバカにしている訳ではないんだよ?私は感情がすぐ顔に出るからと、よく注意をされるけど、本当に純粋にそうなだけであって悪意はないんだよ。」

「…どうでしょうね。」

「まぁ…、君も大概だけどね」

ボソッと言った部長に、(図星をつかれてムキになった訳ではない)僕が言い返そうと口を開く前に、

「この絵は完成することはないと思うよ。」

今度は、部長から話を逸らした。