体育祭はまだ少し遠いと言うのに、クラスの雰囲気はすっかり体育祭一色になっていた。
なんだか、クラスの団結力が上がったような気がする。

体育の授業が増え始め、僕は毎日が億劫で仕方がない。
けれど、僕は河本さんと話す機会が少し増えたのが嬉しくて、それを源として、毎日を耐え抜いていた。

RINEを交換した日から、河本さんから話し掛けてくる回数が増えた。

よく、放課後の空いた時間にお喋りをする。
僕の放課後は、図書室に行くだけで急かされる理由もないから、いつも教室に残っている彼女から話し掛けてくれるのだ。

それは、僕の絵を期待しているからなのか、ただ単純に僕と世間話をしていたいだけなのかは分からない。
もし前者の方なら、おそらく僕は彼女の期待に応えることは出来ないだろう。

彼女に絵を見せて欲しいと頼まれた日から、何度か絵を描こうとはしているけれど、どうにも彼女に見せれるような絵が描けない。

彼女の中での僕の絵は、とても上手いらしいから、だいぶプレッシャーが掛かる。
僕はプレッシャーを背負っても尚、素晴らしい力を発揮出来るような人間じゃない。

頭の中でグルグルと回る罪悪感は、彼女が僕に話し掛けてくると、その嬉しさで何処かへ行ってしまうのに、時々舞い戻ってきては、僕を苦しめるのだ。

本当に嫌になる。
それもこれも全て、体育祭のせいだ。と理不尽な押し付けで、無理矢理自分を納得させる。

そうでもしなければ、時々舞い戻ってきては僕を苦しめる、この罪悪感から、今も目の前でニコニコと笑う彼女から目を背けたくなるから。

「あ、そう言えば、こないだ借りた本、面白かったよ!やっぱり優希くんが選ぶ本にはハズレがないね~」

あまりにも僕を過大評価する彼女に、「それは言い過ぎだよ」と苦笑して見せる。

「僕が面白いと思ったのを貸してるだけなんだから。でも、河本さんが面白かったって言ってくれるのは、嬉しいや」

「嬉しいの?」

「うん、嬉しいよ。僕が面白いと思った本が、他の人からも認められるのはすごく嬉しい。別に僕が書いた訳じゃないのにね」

「ふふっ、そっかぁ…嬉しいのかぁ…じゃあ、貸してくれてる本のお礼に、今度は私が本を貸してあげるよ!」

「えっ!そんな、気を使わなくても良いよ!僕が一方的に貸してるだけなんだから!」

僕が慌てて首を横に振ると、彼女はクスッと笑ってから、

「ちーがうよ。私も一方的に優希くんにオススメの本を貸したいだけ!ね?」

バチンッとウインクをして見せた。

「う、うん…。」

僕は嬉しいのと恥ずかしいのとで、少し下を見ながら答えた。

「じゃあ、今度持ってくるね!ばいばーい」

「うん、また明日」

大きく手を振る彼女に、僕は小さく手を振り返した。