「優希ぃー最悪だぁー委員長が強引過ぎて辛いよぉー!!!」
6限目が終わった直後、千晃は僕の元まで走って来た。
「な、なに?」
「俺、運命走になった…もうヤダ…死にたい…いや、生きるけど…。」
「あぁ、うん…ガンバッテ。」
「お前ぇ!!自分が借り物競争だからって!!!」
「そんなに借り物競争が良いの?」
千晃はバンッと机に両手をつけ、
「優希は借り物競争の良さを分かっていない!!借り物競争つったら定番も定番!!このむさ苦しい体育祭での大事なラブだよ!!!!去年出た『好きな人』のお題を引いて、可愛い彼女をゲッチューしたい!!!それが借り物競争の醍醐味だよ!!…と言う訳で、代わってちょ?」
「ごめん無理。」
間髪入れずに断りを入れた僕の目の前で、千晃は大袈裟に崩れ落ちた。
「うわぁぁん!!運命走とかつまんねーよ!!なんも良いことねーよぉぉぉ!!!」
「はいはい、僕は絶対代わらないからね。他の人に頼みなさい。僕は、千晃がめっちゃバカにしてきた運命走はもう一生やらないって決めたから。」
「うぇー…。」
千晃は、シュンッと、見るからにテンションを下げた。
机に少し隠れながら、どうしても?と言いたげな、悲しそうな瞳で僕を見つめる。
「そんな顔僕には通じないってば。ほら、自分の席に戻った戻った」
「むぅー、優希のバーカ!!」
千晃が拗ねるのはいつものことで、最後に言う悪口は必ずと言って良いほどバーカだ。
小学生のような拗ね方だ、と毎度思う。
どうせ、すぐに怒ってたことなんて忘れる性分だから気にする必要もない。
僕は千晃の後ろ姿を見送ったあと、机から本を取りだし、そして、
「その本、好きなの?」
――後ろから聞こえた声に驚いて、開いていたページを閉じてしまった。
が、今はそれどころではないと、僕の脳から本のことなど一瞬で消え去った。
「えっ!?河本さんっ!?なっ…えっ!?」
「そんなに驚くことないじゃん。私、これでも一応、優希くんと同じクラスなんだからね?」
「それは知ってるんだけど…驚いちゃって…ご、ごめん。…どうしたの?何か用事?」
僕はあくまでも冷静を装って訊いた。
あまり何度も驚いていては、河本さんに失礼だろうと思ったから。
いや、もう驚いちゃったけど。
「用事っていうか…優希くんが読んでる本、難しそうだなーと思って。」
「難しそう…?」
僕はすっかり存在を忘れていた本に視線を移した。
パタン、と閉じられた本の表紙には〝世界の美術〟と書かれている。
小学生の頃から持っている、少し年季の入った、美術作品が載っているだけの本。
