人前が苦手なのは僕も同じ。
周りの人から見れば、一目瞭然だろう。
僕は明らか人前が苦手そうだけど、彼女は違う。
いつもみんなの前でも普通に喋れて、常に笑顔でいられる、とても人前が苦手そうには見えない。
だからこそ、こんなことを思っては失礼かもしれないけど、遥か遠くに感じていた彼女の存在が、少し、ほんの少しだけ近くなったような気がして、僕は嬉しくなった。
「……河本さんも人前が苦手なんだ…」
「なにー?幻滅でもしたー?」
からかうような口調で僕に問い掛ける彼女に幻滅などするハズがない。
そんな思いを込めて、
「じゃあ…僕とおんなじだね。」
人前が苦手なのは僕も、たぶん世界中の人も同じこと。
誰だって、いつだって、人前に立つのは怖いものなのだから。
彼女は少し目を見開いて僕を凝視した。
あれ…?
僕なんか変なこと言ったかな…。
そんな僕の不安をよそに、彼女はまたクスッと笑った。
「初めて笑ったね。」
「え…?」
「昨日もそうだけど、私とは目を合わせてくれないから嫌われてるのかと思ってた。」
「僕、人と喋るのが苦手だから…別に河本さんが嫌いな訳じゃないよ…!本当だよ!」
「そっ、かぁ…それなら良かったぁ…」
彼女はホッとしように、ふにゃり、と眉尻を下げながら笑った。
そんな態度を取られては、僕は勘違いをするよ。
もしかしたら、僕にも希望があるのかもって勘違いをしてしまうよ。
君が僕に優しくすると、僕は喋り方を忘れる。
君が僕の名前を呼ぶと、僕は目の合わせ方を忘れる。
君が僕の横を歩くと、僕は学校までの道のりを忘れる。
君が笑うと、僕は諦めようと思った決意を忘れる。
もう学校はすぐそこにあり、早く着きたいと思う僕と、まだ着きたくないと思う僕がいた。
僕の足は、頭の中での葛藤とは裏腹に、自然と学校へと向かっていた。
少し頬を赤らめている彼女に気付きもせず。
