弱虫男子



「本当に優希ちゃんは弱虫イモムシだな~普通におはようって言えば…」

「うわぁぁぁぁぁぁ!!!!千晃のバカ!!性悪!!チャラ男!!!あんぽんたん!!!中学生のとき彼女に振られて泣いてたクセに!!!!」

「ちょっ…プライバシー!!」

千晃が、それ以上は言わせまいと僕の口を塞ごうとしてくるが、僕も千晃に余計なことを言わせないよう必死だ。

「ふっ…あははは!」

え?
僕と千晃は動きを止めて、笑い声を上げている河本さんを見た。

「ははははっ!優希君って面白いね!あ、あんぽんたんって…!!」

『優希君』
初めて…、初めて名前、呼ばれた…。

胸の高鳴りは収まるところを知らず、それどころか、心臓が爆発しそうな錯覚にすら陥った。

彼女の笑顔も、初めて呼んでくれた名前も、彼女の全てに僕の心が反応する。

本当にヤバイかもしれない…。

「亜紀ー!」

「あ、はいはーい!今行くー!」

廊下から彼女の友達だと思われる女子生徒が、彼女を呼んだ。

彼女はひとしきり笑ったあと、「じゃ!」と片手を上げ、友達の元――廊下へと向かう為に、僕達にクルリと背を向けた。

が、突然彼女は振り向いて、

「優希君!」

僕の名前を呼んだ。

「っ――なに…?!」

反射的に彼女の方を向くと、バッチリと目が合ってしまった。

彼女は千晃を指差した。

「その女っタラシにもっと言ってやってよ!」

それから、ニッコリと微笑んだ。

ズッキューン。

う、わぁ…っ。
彼女の後ろ姿から目を離せない。
胸が痛い。
これは完全にクリティカルヒットだ。

「……おーい。優希?」

僕の前でヒラヒラと振られる手なんて霞んで見えない。

僕の顔はさぞ赤いことだろう。
体温がグーンッと上がっている気がする。

どうやら、今日1日は、この胸の高鳴りから解放されることはなさそうだ。

下手をすれば彼女を見る度に、この胸はバクバクと大きく脈打ち、僕を不安定にさせるかもしれない。

それは困る。

これ以上、彼女を好きになる訳にはいかない。

名前を呼ばれただけでこの苦しさだ。
もう手遅れかもしれないなぁ、と頭の隅で冷静に思いながらも、僕の心臓は爆発寸前だった。