「神崎さんの家にはあるんですよね、その、なんとかオイル。」

話が怪しい方向に向かっていく気がする。

「……あるけど、貸せないよ。私毎日使うから。」

そうつっけんどんに返すと、彼はその笑顔を保ったまま、いや、と柔らかく否定する。

「その場でちょっと洗面台を貸してもらおうかなぁ、と。」

「は?」


……そうくるか。まさかとは思ったけど、家に上げろ、とくるとは思わなかった。

「えっ、待って、無理だよ。うち散らかってるし。」

「洗面所だけでも?」

「うん、恥ずかしい。」


また、あの拗ねたような顔に戻った。だけど、私だってこればかりは安易に頷けない。

なんとなく居心地が悪く、手元にあるマウスを指で遊ぶ。


でも神崎さん、と彼がまた話始める。何を言われるのだろう、と身構えると、彼はまた何かを企んでいるような顔でこちらを見つめていた。


「もう今はフリーだから、僕を家に上げても問題ないですよね?」