硝子の靴に口付けを



猫はニタリと男を見下ろして言います。

「あぁ、もう朝か。太陽のヤロウが顔を出してらぁ。」


男は驚いてしまいました。猫の風貌だけでなく、猫が喋ったという事実、猫の科白に。
しかし、それも一瞬のことで男は猫の理屈に反論したくなりました。



「いや、違う。あれは夕日さ!何故なら太陽が昇ってから落ちるまで、俺ぁこの目で確かに見ていたんだ。夕日は落ちるもんだからなぁ!」

男は、とても得意気に話してやりました。


男が屁理屈を話すと村人たちは、いつも呆れるか笑いはじめます。
この猫もきっと呆れるに違いない。
どっかの誰かが考えた常識に縛られて生きることしかできない奴らばかりなんだ。
男はどうだとばかりに見上げました。



するとどうでしょう。

猫はニタリと笑ったまま「なるほど。確かにその通りだ。」と至極真面目な声で言いました。


「なるほどなるほど。お前は賢い猫のようだ。喋れるだけでなく、考えることも出来るんだな。」



男は大層関心したように頷きながら、猫を誉めました。