「起立、礼、着席」
「はーい、みなさんおはようございます。今日から我校に―――」
担任の挨拶が耳に入るわけもなく、俺は昨日の出来事について考えていた。
突然目の前に現れたかと思えば、夢を見せるだのと言って学校にまで付き纏うし、簡単に言えばしつこくウザい。俺をどうする気なのかも知れないし、信用ならない上に面倒くさい。奴曰く周囲に害は無いらしいが。
「ねぇーねぇー、結局生徒会とか云うのには入んないわけー?面白そーなのにー」
「うるせぇな…話しかけんなよ、俺が変な奴だと思われんだろうが」
「元からじゃないの?」
一体こいつに何のメリットが有るのかは知らないが、家に帰ったら何とか説得して切り離そう。そうでもしなければ俺がどうにかなりそうだ。
「―――という事だ。今何かあったら職員室来いよー。はい、じゃあHR終わりなー。残りの時間はテキトーに自習しとけ」
担任が教室を去ると、クラスは途端に騒がしくなった。
「あー五月蝿い五月蝿い。なんで人間ってのはこうも騒がしいわけ?いつもどこもごっちゃごちゃしててダルイ」
もうこいつは無視しておこう。俺は愛読書のラノベを取り出し読み始めた。人間が生み出した文明で最も優れていると言っても過言ではない。それぐらい俺はラノベにハマっている。
「なにその人間臭い書物。まぁあんた人間寄りだしいいんじゃない?」
流石の俺も堪忍袋の緒が切れそうになっていた。
そんな時。
「佐々木繰磨!いるかー!?」
「昨日の…2年の…?」
教室のざわめきを掻き分け俺に一直線に向かってきた、昨日俺を勧誘した2年の生徒会書記の女子生徒は、言う。
「お前は今日から生徒会だ。異論、反論は認めない。生徒会長直々の判断だ。授業中だがついてこい。やるべき事を済ませよう」
「はぁ!?ちょっ、意味が分からねぇよ!」
掴まれた腕を振り解こうとした。が、不可抗力だった。恐ろしい力で掴まれている。普通の人間なら骨ごと握り潰される程だ。
こいつも、もしかしたら…………?
「…行くぞ。会長が待ってる」
俺は呆然としながら、彼女に引かれて生徒会室に連れ込まれた。

「連れてきたぞ。会長は?」
「おかえり!んー、今どっか行っちゃったけど…」
訳が分らない。
きっとこの2年の女子生徒は俺と同じ…いや、俺なんかよりずっと濃い、純血の妖だろう。本能で分かるものだ。
なぜ妖がここにいるのか、なぜ俺を無理矢理生徒会に入れたのかは分からない。
俺の動機は激しくなるばかりだ。
「ねぇねぇ、この学校なんなの?妖の溜まり場?」
夢兎がコソコソと話しかける。コソコソ、というのは多分雰囲気を察しての事だろう。
「知らねぇ。ただ、そうだとしたら――」
「お待たせー!佐々木…繰磨くん?私は隠城緋瞳!よろしくね!」
「会長!どこ行ってたんですか!…まぁいい。佐々木、紹介しよう。こちらが、我が校の生徒会長、隠城緋瞳先輩だ」
「改めまして、よろしくっ!」
ふわふわとした雰囲気の彼女は、どうみても高3には見えない。下手をすると中学生か小学校高学年ぐらいに見られるほどだ。
「今日から君も我ら生徒会の一員だ。よろしく頼むぞ、佐々木繰磨」
「よろしくね!」
「頼むよ〜?」
「あんたが読んでる書物みたいだね」
「…………よろしくお願いします」
正直面倒ではある。でも、たまにはこんな茶番もいいかもしれない。
心に暖かい何かを感じながら、俺は未来へと足を踏み込んだ。