アプリーレ京町、へようこそ

衝撃的な出会いから数分。
俺たちは目的地のアパートを目指して歩いていた。

「ははっ、やべえなこの地図」
「あ、やっぱり...?」
俺が不動産屋のおっちゃんにもらった地図を見て黒沢さんはおかしそうに笑う。
その横顔を見ても、やっぱりカッコいい。
なんていうか...これが頼れる兄貴、って感じなのかな。しかもめっちゃいい人だし、バスケできるみたいだし、やっぱりモテるんだろうなあ...。
なんてぼんやり思っていると、急に黒沢さんが横道に入ったので慌てて付いていく。
砂利の駐車場の反対側に、そのアパートはあった。
「着いたぞ、ここだよ」
「わ...」
俺は思わず足を止めた。
不動産屋の写真で分かっていたつもりだったけど、実物は想像を遥かに越えていた。
今時珍しいレンガの壁の3階建て。黒い屋根のところには『アプリーレ京町』と書いてある。しかもここの1階部分にはケーキ屋が入っているのだ。ガラス張りっぽいが、家庭の庭でよく見かけるような格子状の柵があるので中の雰囲気までは分からない。でも少しだけ見えているショーケースの中にはケーキがいくらかあるのが分かっ、た。濃い緑色の鉄板の看板には店名が書かれているみたいだけど、英語でもなさそうで俺には読めない。
「...すげえ固まってるけど。何?おまえこういうケーキとか好きなの?」
「え、あ、...はい」
一瞬ドキッとして俺は思わず店から視線をそらしてしまった。
実は、俺は甘いものが大好物なんだ。和菓子、洋菓子何でも好きだけど、なんか女子みたいで恥ずかしくてあんまり言うことはしてこなかった。
(俺男だし、カワイイって言われても嬉しくもなんともないしな...)
「ふうん。そっか」
でも、意外に黒沢さんの反応は薄かった。からかわれなくて良かったけど。
(ま、黒沢さんてスイーツとかいうイメージないし...興味なさそう)
赤いイチゴが乗ったショートケーキをおいしそうに食べる黒沢さん...。......ダメだ、想像つかない。俺のキャパシティを完全に超えてる。
「おーい!安田ー!」
急に黒沢さんに大声で呼ばれてハッとした。ついボーッとしてた。気づけば黒沢さんはさっさとアパートの階段を上っている。
「あ、すいませんっ!」
俺はもう一度カフェに目をやり、それから急いで黒沢さんのもとに駆け寄っていった。