「――その……」

 そう言いながら、大樹クンは一歩足を私の方へ進める。
 同時に、自分のズボンのポケットに手を入れて――ハンカチを取り出した。

 私は、大樹クンの行動を、一瞬たりとも見逃さないように……頬をグジャグジャに濡らす涙も鼻水もそのままに、身動き一つ取らずにジッと見つめる。

「僕も……」

 そう言いながら、大樹クンは私の顔にハンカチをあてて涙と鼻水を拭き取る。
 私は、まだ身動きをせずに大樹クンの言葉の続きを待つ。

 私の顔を拭い終わった大樹クンが――私の身体をそっと包み込んだ。
 その体勢のまま、そっと……優しく私に呟いた。

「僕も……ずっと杏子さんのことが好きでした。僕と……付き合ってくれますか?」