差し出された手を握り返すと、専務はその手をさらに力強く握り返してくる。

「瀬戸くん、君と一緒に仕事が出来ることを期待している!」

 やや熱っぽい口調で、最後にそう告げてから専務は喫茶店から出て行った。
 席に残されたのは海野部長と私、それに……私を悩ませるこの書類である。

「まあ、そういうことなんだよ」

 部長がおしぼりで額の汗を拭きながら言う。
 専務が去ったテーブルは一通りの緊張が去ったようで、先ほどまでは静かに感じていた喫茶店に俄かに雑音が甦ったように、周囲の音が聞こえてくる。

「実は、私も誘われててね。瀬戸くんにとっても悪い話じゃないと思うんだよ」

 部長はそう言いながら、自分が注文していたコーヒーフロートに手を付ける。
 時間が経った為に、クリームが完全に溶けて分離した液体を美味そうにゴクゴクと飲んでいく。