心を全部奪って

リビングの赤いソファーに腰を下ろした途端、拓海君がゴロンとそこに寝そべる。


私はその横に、ちょこんと座った。


「拓海君。

先に帰って休んでていいよって、いつも言ってるのに」


そう言った私の手を、拓海君がぎゅっと握る。


「やだ。

だって、心配だし」


「大丈夫だよ。

あの店のお客さん、みんな良い人ばっかりだよ」


仕事を始めてまだ1ヶ月なのに、みんな私の名前を覚えてくれて、親しげに話しかけてくれる。


「一人で部屋で待ってたって、寂しいだけだし。

だったらナオトの店で、夕飯食ってた方がいいじゃん」


「そうだけど…」


仕事で疲れてるだろうし、ゆっくり休んで欲しいのに。


「ひまり。お風呂に入っておいで。

俺、歯磨きして、ベッドで待ってる」


「うん…」


拓海君はいつもお風呂に入ってから居酒屋に来るから。


歯磨きさえしちゃえば、すぐに寝られるんだよね。


私はお風呂場へと急いだ。