心を全部奪って

霧島さんの顔がゆっくりと私の顔に近づいて来る。


息が触れ合いそうなほど近づいたところで、彼はピタリと止まった。


「マジ驚いたよ。

アパートのドアから顔を出した女。

その出迎え方は、やけに親しげだった。

栗原課長から聞いていた、工藤課長の奥さんとは全く特徴が違うし。

奥さんじゃないなら親戚か?妹か?

一瞬で色々考えたけど。

その顔は、俺の見覚えのある顔だった。

絶対どっかで見たぞって必死に考えた。

そうしたら思い出した。

同じ会社の女じゃないかって」



ゴクンと息を飲み込む。



その音がこの男に聞かれていそうで、ひどく悔しかった。



「すぐにピンと来たよ。

そうか。

こいつら不倫してるんだって。

まさか、あの工藤課長がねー。

人は見かけによらないなって思ったね」



霧島さんの声はどこまでも冷たくて。


なんだか心が凍ってしまいそうだった。