心を全部奪って

霧島さんの声が、どこか遠くから聞こえてくるようで。


これが現実だとは、とても思えなかった。


「去年の秋ぐらいだったよ。


会社帰り、やたらと工藤課長と電車が同じになるんだ。


栗原課長の話じゃ、工藤課長の自宅は全くの逆方向のはずなのに」


そうか。


私とこの人は同じ路線。


3つしか駅が違わないし。


私の部屋に来るためにあの地下鉄に乗っていた工藤さんを、


この人は見ていたんだわ…。



「行きつけの飲み屋でもあるのか。


もしくは習い事とか、ジム通いでもしてるのか。


最初はそれくらいで気にも留めてなかったんだ。


だけど何度か見かけるうちに、


あれだけのイケメンが会社帰りに何やってるのか、


ちょっと気になり始めたんだ。


それである時、工藤課長の後をこっそりつけたんだ。


まぁ、ちょっとした好奇心だ。


そうしたらさ…」