「お父さんは、別にかまわないよ」


「えっ、本当?」


かまわないと聞いて、なんだかホッとしてしまう。


「実はお父さん、来月から自宅で学習塾を開くんだ」


「学習塾?」


「近所のお母さん達の熱い要望でね、子供達の勉強を見ようかと」


今学期まで校長先生として、小学校に勤務していた父。


生徒や保護者からの人望が厚いと母から聞いていた。


そんな父を、周りがほうっておくわけないよね。


60歳とはいえ、父はまだまだ若いし。


家で何もしないなんて、確かにもったいない。


「ひまりさえ良ければ、手伝ってくれないか?」


「えっ?私?」


「ちゃんとお給料は払うよ。ひまりが勤めていた会社ほど、払えないとは思うけど…」


「そ、そんなこと…」


今までだって、お給料のほとんどは家賃と食費で消えていたんだもの。


手元に残るのは、ほんの僅かだったんだから。


そんなに多くは望まない。