心を全部奪って

「ひまりと、寝たのか…?」


セクシーで艶のある低い声。


ゾクゾクするようなその声で、何度アイツを誘惑したんだろう。


「だったらどうだって言うんだよ」


悪かったな。


まだ寝てなくて。


「あれは、俺に対しての挑戦状か?」


挑戦状?


別にそんなつもりはなかった。


あんたを煽ったところで、こっちには何のメリットもないし。


ただ、自分の印を残したかったのかもしれない。


結果、それをあんたが見るとは思わなかったけど…。


「悪いが、いくらひまりを思っても無駄だ。

キミになびくことはない」


「なっ」


何だよ、それ。


大した自信なんだな。


「工藤課長」


俺が呼ぶと、工藤課長の身体が少し俺の方に向いた。


「本気で奥さんと別れる気があるんですか?」


どうせ、そんなつもりないんだろう?


紙だけちらつかせて、朝倉の心を繋ぎ止めているだけなんだろう?