「さっきはごめん、あたし無神経なこと聞いた」
 蒼太に背を向けたまま、紅葉は言った。
「母さんのことですか?」
「うん」
「父さんに何か聞きましたか?」
「うん。全部聞いた。ごめん」
 蒼太の顔が見えないので、少し不安な思いに駈られながら、答える。

『今、どんな表情してるんだろ……』

 先ほど、母親のことを尋ねたときの表情が頭をよぎる。
 気になって振り返ろうとした瞬間――
 背後から回された腕に、紅葉は動きを封じられた。
 両腕ごと後ろから抱き締められるかたちになり、身動きがとれない。
 耳元で、小さく蒼太がクスリと笑うのが聞こえた。
「紅葉さん、謝ってばっかりですよ」
「蒼太?」
「いえ、すみません。しばらくこうしてていいですか?」
 紅葉に腕を回したまま、その華奢な肩に額をつけ、うなだれた姿勢で蒼太が言う。
 紅葉は混乱しながらも無言で頷くと、蒼太の次の言葉を待つことにした。