――とても暑い日だった。



 蒼太が夏休みにはいってすぐの頃だったと思う。
 彼女は、まだ乳離れしない緑を腕に抱き、蒼太と川へ行くと言った。
 元々身体が丈夫でない上に、歳の随分離れた兄弟を出産して体調を崩しがちだった彼女は、蒼太と長いこと遊んであげれてないからと。心配ないと言って笑顔で出かけた。
 ところが……

 精一杯の蒼太への愛情。
 それが裏目にでた。

「とても暑い日でね。彼女は熱中症になってしまったんです。蒼太が緑の泣き声に気が付いて川から上がった時には、もう意識がなかった」
 そこまで語ると熊蔵は、もう冷めてしまったお茶を一口飲んだ。
「泣いてる緑を抱えて、蒼太は私に知らせるため走ってきました。私もすぐに駆け付けてはみたものの、この辺りには病院すらない。……町から救急車が来た時には、もう手遅れだったんです」
 紅葉は言葉を発することも忘れ、熊蔵の話を聞いていた。
「彼女の葬式の日、蒼太は言った……ずっと泣くのをこらえていた蒼太が、大声で泣きながら」
 熊蔵は、少し辛そうな表情を浮かべて続ける。
「僕がもっと早く気付けば。そうしたら母さんは助かったのにと。僕が死なせたんだと」
「…………」

 ――僕が、死なせてしまったんです。

 そう、紅葉に告げた時の、蒼太の顔が脳裏に蘇る。
 蒼太のあんな表情を見るのは初めてだった。