引き戸の向こうはすぐ居間になっていて、天井からつりさげられた裸電球がオレンジ色の柔らかい光で部屋を照らしていた。
 部屋の中央には丸いちゃぶ台が置かれ、床には読みかけの新聞が広げられている。
「いやぁ、聞いてた通り綺麗な人だ。蒼太がお世話になってるようですね」
「いや、世話になってるのはあたしの方で……」
 熊蔵が出してくれたお茶を有難く受け取りながら紅葉は苦笑いして答えた。
 外見は全く似ていないが、熊蔵のゆったりとした話し方や、優しい光を湛えた黒い瞳は、確かに蒼太によく似ている。
『それにしても――』
 この家族は揃いも揃って自分を褒め殺す気だろうか、と紅葉は思った。
 父親まで紅葉のことを綺麗だなんて言う。
「紅葉さんは白子様ですね」
 熊蔵の声に紅葉は思考を止めて顔をあげた。
 蒼太は来てそうそうに緑に宿題の手伝いをせがまれ、奥の部屋へ連れていかれたまま戻ってこない。
「白子様?」
「白い髪に白い肌。それに真紅の瞳……あなたのような容姿をもって産まれた人を昔はそう言ったそうです。今は、アルビノと言うらしいですね」
「詳しいんだ?」
「これでも、大学をでてますから。それなりに知識はあります。歳も歳だしね」
 そう言って熊蔵は穏やかな目で紅葉の方を見ている。
 なるほど、彼が紅葉を見ても驚く表情ひとつみせなかった理由は、その知識のおかげらしい。