夜と紅と蒼と……



 思わぬ答えに紅葉は言葉を失った。

『蒼太が……死なせた?』

 硬直して絶句している紅葉に気づいたのか気づいてないのか蒼太が紅葉の手をひいたまま、黙って足を進める。
「あそこです」
 もとの笑顔に戻って蒼太が指差した先を見ると、細い道を登った先がひらけて、背の高い木に囲まれた小さな古い民家が見えた。
 木造の平屋作りのその家の上には、そこだけぽっかり穴が開いたかのように丸く星空が覗き、昔話や童話にでてくる風景がそのままそこに在るかのようだ。
「え……えっと、蒼太?」
 混乱気味の紅葉におかまいなく、蒼太は庭を横切り、白い軽トラックのとまった納屋の前を通り過ぎ民家の玄関へと紅葉をつれて行く。
 玄関を開け、中に入ると土間になっていて
「……?」
 中に入った紅葉は真正面に絵がかけられているのに気がついた。
 昔ながらの農家のような家の土間にはとても似つかわしくない油絵。
 額に入れられたその絵には深い藍色の背景にぼんやりとやわらかい光をたたえてるような白い三日月が描かれている。
「父さん、緑、僕です」
 絵に気を取られている紅葉の横で、蒼太が土間の奥へ呼びかけた。
 少しの間もなく奥からコチラへ慌しく走ってくる足音がして、木製の引き戸が勢いよく開かれる。