頷く紅葉の赤い瞳から、また一筋涙がこぼれる。
それに気づき、蒼太は目を細め、それが落ちていくのを眺めながら思った。
『綺麗だ……』
こんなことを思うのは不謹慎かもしれない。けれどそう思わずにいられなかった。
最初の涙を見た瞬間、わけもなく切ない気持ちで一杯になってしまった。
夜空にまたたく小さな星にも似た、どこか儚い彼女。
――気が付いてしまった。
今まで見ていた、明るい素振りや、おどけた表情は彼女の精一杯の抵抗であることに。
自分を飲み込もうとする、弱さへの畏れ……
『守りたい』
心の底から溢れる感情。
彼女が畏れるものから、彼女を傷つける全てのものから――守りたい。
心から、そう思う自分がいる。
蒼太は紅葉の白くて華奢な手をそっと握った。
「すみません。まさか泣かせてしまうなんて思わなくって」
「あたしもまさか泣くとは思わなかったよ」
少し照れくさそうに紅葉は俯いた。
「うん。でもなんかスッキリした」
実際、何か体の奥につかえていたものが取れたかの様に。紅葉は気持ちが軽くなったのを感じていた。
『期待しちゃダメだ……』
――そう、思ってた。
でも、彼なら大丈夫かもしれないと、思っている自分が今ここにいる。
『信じたい』
そう、思った。
自分を見つめる、夜の闇のように優しい光を持つ黒い瞳を。
握られた手から伝わる、暖かい熱を。
――信じられたらいいのに。
そう、思うと益々胸が苦しくなって、紅葉はそれ以上、何も言うことができなかった。

