夜と紅と蒼と……



「蒼太……あんたなんでそんなことわかんの?」
 せっかく止まった涙が再び溢れ出そうになるのを紅葉は懸命にこらえて言った。
「好きだから……じゃないですか?」
 いつもの調子で蒼太はさらりと答える。
 涼しげに臆面もなく。その言葉一言一言にこっちはこんなに揺らされているのに……
 そう思うと、その誠実そうで端正な顔が憎しくも見えてくる。
「あんた、おとなしそうな顔して結構強引……」
「すみません」

 素直に謝られるとさらに調子が狂うじゃないか……

「まぁ、気にしないでください。僕の勝手な片想いです。紅葉さんに気持ちを強要するつもりはないですから……」
 気にするなと言われても困る。
「だから、安心して。好きなだけ此処にいてください」
 とどめの笑顔。

 だめだ……

 紅葉は寄せていた眉根を解し、
『どうしてあたしは逆らえないんだろう』
 密かに胸のうちで呟きながら、小さく息を吐いた。
 またしても蒼太のペースに乗せられている。そんな自分が解せない。けれど、それを決して嫌だとは感じないのだ。
 だから、答えはひとつしかない。
 何かに操られるかのように素直に縦に顎を落とす。
「……うん」