「昼間の眺めもいいもんだね」
 サングラスごしの風景は、少々色褪せてはいるものの、夜は見えなかった下の方にある工場や住宅地が並ぶ様は、紅葉には新鮮だった。
「そうですか?」
 蒼太にとっては見慣れた風景。そんな風景に対する紅葉の感想に、僅かに首をかしげながら蒼太は紅葉へと視線を流す。
 目深に被った野球帽から覗く白髪が揺れて、日の光をキラキラと反射させている。
 高台にあるせいか、風がよく通る。少し湿り気はあるものの、涼しくて気持ちがいい。
「普段、こんな時間に外出ることないからさ」
 そう言って笑う顔がなんだか少し寂しげに見えて、蒼太は何を言えばいいのか迷った。
 自分達が当たり前としていることが、彼女にはそうではない。
 例えば、暖かな明るい日差しは、とても気持ちが良くて、落ち込んだ気分まで晴らしてくれるというのに……
 彼女にとっては危険の象徴となってしまう。

 彼女の抱えるものの重さ――

『僕はなにひとつわかってやしない』

 何気ない一言に、改めて思い知らされた気がした。
 そして、そんな自分が蒼太はとてもはがゆく感じる。
 けれど……。