『でも、綺麗だ』
そう言って微笑んだ蒼太の顔が脳裏に浮かび、目の前の緑とだぶる。
「ありがと」
なんだか嬉しくなって、紅葉は緑の頭をぐしゃぐしゃと撫でる。きょとんとしてされるがままに頭をシェイクされている緑。
「楽しそうですね」
ケーキの乗った皿を持って来た蒼太がそれを見て笑みを浮かべる。
蒼太の声に目線を上げて、皿の上にあるケーキに気付いた紅葉は、さっと何かを宣誓するかのように片手を上げた。
「あ、ごめん。あたしパス」
「え?」
突然そんな宣言をする紅葉に、蒼太と緑は同時に聞き返した。
「苦手なんだ」
紅葉は苦笑いして言う。
「子供のころさぁ。よくケンカしてさ、泣かせたり怪我させたりしてさぁ」
ふぅ、とため息をつく。
「そのたんびに親がさ、ケーキもって謝りに行くわけ。もとはといえばこっちが悪いわけでもないのにさ。だから悔しくて……ソレにはあんまりいい思い出ないんだ」
「はぁ……」
二人はポカンとして紅葉の話を聞いていた。
「うまいのになぁ」
緑が心底不思議そうに言う。だが
「だから、これ、緑が食べな」
「うそ? やったあ!!」
紅葉がそう言ってケーキを差し出すと、緑は素直に喜んで、遠慮なくそれを自分の手元へかっさらった。
「紅葉っていい人だなぁ」
げんきんなものである。
けれど、その笑顔はいたって無邪気で、とても憎めそうもなかった……

