「あのさ……」
 小声で呟くように漏れた言葉にハッとして横を向く。透けるような紅い瞳が蒼太を見ていた。
「ありがとね」
「……何がですか?」
「うーん……なんだろね。なんか色々」
「?」
 突然紅葉がそんなことを言い出したわけが分らず蒼太は首を傾げる。
 言った紅葉自身、どこか戸惑ったような表情を浮かべ、照れくさかったのだろうか、すぐに視線を逸らして俯いた。
 
 しばらくの静寂――

「ふたりで見るのも悪くないものですね」
 再び外へ目をむけ、蒼太はつぶやいた。
 今まではひとりで、誰にも邪魔されずに見るのが好きだった
 
 夜の表情。

 でもそうじゃなかったことが解ったような気がする。
 一緒に見たいと思える人がいなかっただけなのかもしれない。
 同じ景色をみて、同じ空気を感じて……
「――?」
 不意に肩に、かすかな熱を感じて、蒼太は思考をとめた。
 肩にかかる白い絹糸のような髪
「紅葉さん?」
「いいからじっとしてて」
 蒼太の肩に頭をもたれさせて紅葉が言った。
「今すっごい、いい気分なんだから」
「あ……はい」
 言われるままに肩を貸す。
 ちらと横目でうかがうと、紅葉は少し眠そうにしていた。とろんとした瞳にかぶさる瞼が重そうだ。