『シャワーをあびたら、奥の部屋を改造しよう』
 そんなことを考えながらシャワーを浴び、浴室から居間へ蒼太が戻ると、テレビはもう消され、紅葉の姿も無かった。
「紅葉さん?」
 もう寝てしまったのだろうか?
 そう思いつつ、そっと隣の部屋のふすまを開けると真っ赤な瞳と目が合った。どうやら寝ていたわけではなかったようだ。
「何してるんですか?」
 電気もつけずに、カーテンを全開にして窓の前に足を投げ出して座る紅葉の姿に首を傾げ、尋ねると
「綺麗だよ?」
 白く細い指先が窓の外を指差す。
「雷」
 外ではまだ激しく雨が降り、遠くの方では時々、青白い光が空を切り裂くように走っている。
 じっと魅入られたように外を見つめる紅葉の横に、同じように並んで座り、蒼太も外へ視線を送った。
「ほんとだ……綺麗ですね」
 暗い夜空に時々閃く稲妻は、青いような、紫がかったような色をおびて、白く後を残す。
 それは、とても神秘的な光景で、何故かとても心の奥を揺さぶられる――
「あたし、夜が好き。余計なものは見えないし、夜の光はあたしに優しい。雷だって遠くで光るのは、凄く、きれいだよね……」
 そう言いながら、時折目を細めて外を眺める紅葉を見ているうちに、蒼太は思い出した。
 子供の頃、こんな夜にこっそり部屋の窓を開けて、何時間も眠らずにその光を眺めていたこと。
 その激しくもどこか儚い光は、昼間の明るい光よりずっと蒼太の心を魅了したこと。
 そして今、その青白い光に浮き上がる白い白い彼女の顔は、何故か今にも消え入りそうな錯覚を蒼太に抱かせる。
「夜だけは、あたしは自由なんだ……」
 そう言ってみせる笑顔がなんだか悲しげに見えるのは気のせいだろうか……?
 初めて見たときからずっと、明るい月のような印象だった笑顔に、ほんの少し得体の知れない影のようなものがかすめた気がした。
「僕も……好きですよ、夜」
 気の利いた台詞が思いつかない。
 沈黙が覆いかぶさる――