夜と紅と蒼と……



「パパー!! これ、落ちてたよ。パパの大事なお仕事のでしょ?」
「ん?」
 娘が持ってきたノートを目に止めて蒼太は一瞬首を傾げる。
 随分古ぼけたノート。
 最近のものではない……が……
「ああ。そうだ……うん。それ、大事なのだよ。見つけてくれてありがとう、紫月」
 ノートの表紙に小さく殴り書きされた文字を見た瞬間。それが何なのかを思い出し、蒼太は娘の頭をなでてノートを受け取った。
「何何?」
 蒼太の横でそのやりとりを見ていた紅葉が首を伸ばして覗き込む。
「いえ、何でもないです。ずっと昔に書いたノートが出てきただけですよ」
「……?」
 何でもないと言いつつどこか、感慨深げな表情でそのノートへ視線を落とす蒼太に紅葉が首を傾げていると
「終わりましたよー」
 背後で引越し業者がそう言うのが聞こえ
「あ、はいはいー」
 紅葉は立ち上がりトラックの方へ向かった。