夜と紅と蒼と……



 元気に返事をして少女は玄関へ向かう。
 玄関にはまだ幾つもダンボールが積んであって狭かったけれど、小柄な少女が座り込んで靴を履くくらいのスペースはかろうじて残っていた。
 鼻歌交じりで靴を履き、立ち上がろうとして……
 少女は、ふと、ダンボールの傍らに落ちているものに気がついた。
 擦り切れて、古ぼけたノート。
 捲ってみれば、文字が沢山書いてある。
 その字はよく見慣れたパパの字だ。パパはいつも机に向かってノートを広げて沢山字を書いている。
 そして、時々それを見ながらパソコンに何かをしている。
 かたかたという、パソコンの上を叩く音が楽しくて、少女はいつもそばで耳をすませている。
 パパはお仕事してるんだから邪魔しちゃだめよ、とママは良く言っている。
 きっとこのノートもパパのお仕事のやつだ。
 そう思い、少女はそれを拾い上げて小脇に抱えると、階段を降りたところにいる二人のもとへ向かった。